<中編のあらすじ> さとゆめ嶋田氏は、小菅村の経済活性化を図るため『古民家の有効活用』に着目。「700人の村がひとつのホテル」の実現に取り組み、2019年8月に「NIPPONIA 小菅 源流の村」をオープンさせた。さらに、ホテルの運営は、『地域運営型』を取り入れ、地域に雇用を生み出し、地域経済圏を構築し、地域で働く皆を笑顔にする取り組みとして、成功事例を作り上げた。
JR東日本と「沿線まるごとホテル」
「小菅村は多摩川の源流」をアピールする意味も込めて、ホテル名に「源流」を冠することにもこだわった嶋田氏だが、「でも、トンネルの開通でお客さんの送迎は南のJR大月駅を使うのが普通となってしまい、かえって『多摩川の源流』というストーリーが描きにくくなっていました。」
と、新たな課題が立ちはだかる。
実は小菅村は、山梨の大月よりは、むしろ東京の奥多摩や青梅の経済・文化圏に近い。 「多摩川上流に沿って走るJR青梅線と連携した方が、コンセプト的にもしっくりいくのでは、と考えていました。」嶋田氏が新たなアイデアを具現化しようとしていたちょうどその時、奥多摩地域の観光需要喚起を模索していた、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)の八王子支社からオファーが来る。
同社が主催する、有望ベンチャーの発掘企画「JR東日本スタートアッププログラム2020」への応募の誘いだ。超有力企業からのラブコールは、「さとゆめ」にとって、新たな飛躍へのチャンスでもある。JR青梅線の無人駅・白丸駅をホテルの“入り口”と位置づけ、到着した観光客は地元の人に案内で、多摩川源流の絶景を眺めながら山あいの一本道を車でのんびりと進み、古民家の佇まいのホテルと山村を堪能する――嶋田氏は、とっておきの事業プラン「沿線まるごとホテル」でエントリー。
果たして、SDGsにも通じ、時代にフィットしたマイクロツーリズムのアイデアが「優秀賞」として採用された。そして2021年2月に60組限定で試験販売すると、瞬く間に完売。「『沿線まるごとホテル』の実証実験は成功を収め、現在は事業の本格展開に向けてJR東日本さんと広範な提携の調整を進めています」
と嶋田氏の声は弾む。
そして、同年7月、さとゆめは、JR東日本の子会社でベンチャーへの出資や協業を推進するCVCのJR東日本スタートアップ株式会社との資本提携を発表した。嶋田氏の事業はいよいよ第2ステージへと突入する。
「ストーリー」が非常に大事
「伴走支援はとても大変ですが、点と点とがつながるところが魅力です」
と目を輝かせる嶋田氏。
地域活性化に関するコンサルタント会社の場合、計画や戦略を作成する点に特化するのが普通。例えば、A市の戦略を立案したら、これをプラットフォームとして、今度はB町の戦略を作っていく。いわば『水平展開型』で、その後の効果や課題、その対応策などをフォローすることはあまりない。
「対してわが社は完全に『垂直統合型』です。『契約はここまで。後は頑張ってください』ではなく、サポートを続け、次々に出現する課題に対処していくのですから大変です。しかし事業の発案から企画、実行、問題解決といった具合にストーリーが全部つながるので、その達成感は言葉には表せないほどです。ストーリー自体が価値で、『過去・現在・未来』を一気通貫で語れる点が強いのです」
と嶋田氏は強調してやまない。
動き出した「LOCAL BUSSINESS INCUBATOR」
「おかげさまで、『さとゆめ』は創業9年目を迎えました。そこで2021年から10年間を『第2創業期』と位置づけます」
と嶋田氏は再スタートを切る。
そして、新しいCI(コーポレート・アイデンティティ)「LOCAL BUSSINESS INCUBATOR(ローカル・ビジネス・インキュベーター)」も策定した。「人を起点として、地域に事業を生み出す会社」との意味を込めた理念である。
「日本は2015年ごろから人口減少が始まり、その最前線が過疎地域で、本当に人がいません。しかし、ひと昔前までは『田舎には仕事がない』と言われていましたが、今では訪ねた過疎の地域で『仕事がない』など聞いたことがありません。仕事は山ほどあるものの働き手がいないのが実情です」
と嶋田氏は指摘。「さとゆめ」の戦略もがらりと変えていく。
「今後は地方で新規事業を立ち上げても、人材が見つからないという悲劇が頻繁に起こります。これまでは事業計画ありきで人材確保は後回しでしたが、これからは有能な人間を真っ先に確保して育成し、その人とともに事業を生み出すことが求められます」「LOCAL BUSSINESS INCUBATOR」の理念はまさにこの発想で、すでに「さとゆめ」の新戦略事となり始めている。
具体的に説明すると、いの一番に行うことは「人探し」で、将来的に「リーダー」や「フォロワー・サポーター」になり得る「Will(ウィル。意思)」を持った人間を探して育てるところからスタートする。
次に、彼ら・彼女らが集まる「Community(コミュニティ。つながり)」を設け、ここから特定の地域・テーマに関心を持つ人達で「Team(チーム。体制・役割)」を組み、さらに「Project(プロジェクト。活動・試行)」へと発展。数多くの「プロジェクト」の中から「Business(ビジネス。事業)」を生み出していくというものだ。
「このサイクルを回し続けることが大事で、ここからまた新しい人が入って来たり、新しい地域が発生したりしていくのです」
と嶋田氏。
すでにこの戦略を基づいて具現化した実践型のスタートアップアッププロジェクト、「100DIVE」をスタートさせている。 これは一般社団法人ALIVEと共同で、今後10年の歳月をかけて100の地域ビジネスを実際に世に送り出し、地域の新たな可能性を社会に発信していくという、壮大な試みだ。
「『伴走型コンサルタント』というビジネスモデルは、もちろん今後も使い続けていくものの、これからは1つのパーツでしかなく、むしろ今後は人材育成やチームビルディングが『さとゆめ』の主軸となります。まさに事業再構築の真っ最中です」
と未来を見据える嶋田氏。
地域伴走支援プラットフォーム
嶋田氏の座右の銘を尋ねると、
「アメリカの有名なテクノロジー起業家、ベン・ホロウィッツの言葉、『「Your story is your strategy』(あなた自身のストーリーが、あなた自身の戦略になる)です。まさにそのとおりで、地域の物語がそのまま地域の戦略になるのです。人口700人の山村が、生き残りを懸けて『道の駅』を造って、新しい会社も作って、ホテルまで造って頑張っています。
これがそのまま戦略です。こういうストーリーを発信し続ければ、みんなが共感し、『そんなに頑張っている村があるなら、応援しよう』と人々が集まって来るのです。『伴走』は、実は自分のストーリーを作っていることでもあるのです」
と、思いを熱く語る。
地域人財基盤は、これからも人材供給の面で地域を支援し、『さとゆめ』さんの経営を支援できるよう、地域に貢献する仕組みを開発してまいります。
地方創生を「ヒト」と「夢」、そして情熱で伴走支援する嶋田氏。地域人財基盤は、地域産業パートナーである『さとゆめ』の嶋田氏が得意とする「垂直統合型」支援に対して、いわば「水平分業型」のソリューションを提供し、地域伴走支援プラットフォームを構築し、地域再生への新たなステージを切り開いてまいります。(終)