間違いだらけのDX!サステナブルな組織や事業に必要なDXとは

こんにちは。一般社団法人地域人財基盤(以下、地域人財基盤)の坂本健と申します。 

私は2021年に地域人財基盤に参画し、2022年に愛媛県伊予市で地域人財基盤のシステム開発をリードする会社として、iSTARS合同会社を立ち上げました。現在は、伊予市を拠点として地域のDXを支援する活動を行っています。行政サービスのDX化、デジタル人材の育成、DXを活用した産業支援などを検討されている自治体やDMOのご担当者様に、少しでもお役に立つ情報をお届けできれば幸いです。 

DX=課題解決の一手段 

2021年から始まったデジタル田園都市国家構想交付金により、多くの自治体がDXの取り組みを推進しており、当社も頻繁にご相談をいただくようになりました。しかし、本当の意味でDXを理解して活用している地域は、まだそう多くはない印象です。

その背景には、「DX」という言葉が先行し、課題解決の手段ではなく目的化してしまっていることがあります。その結果、多くの自治体が、地域の問題を十分に整理せず、DX化(システム導入)に取り組み、導入したシステムの運用負担が増えただけで問題が解決されていない状況にあります。また、「DX」という言葉の理解を慎重に扱っている自治体も多く、DX戦略室などの組織を作ったものの、どう進めていけば良いか分からず、何もアクションできていない地域も多いようです。 

DXとは、デジタル技術を活用して問題解決をする手段の一つですが、デジタル技術で解決できる問題の範囲が広いため、多くの人が魔法の道具のように考えています。また、多くの人が完成品のアプリやWebツールの導入を起点にDXを進めようとするため、DXが目的化し、難しいものと捉えられているのではないかと考えます。 

そこで、これまでに私が支援した事例をご紹介することで、「こういうこともDXの取り組みなんだ!」という発見と理解に繋がればと思います。 

事例1:複合的な観光情報サイトの構築 

1つ目の事例は、DMOからのご依頼でした。一般的なDMOは観光振興を目的としていますが、その地域は観光資源をあまり多く持ち合わせていなかったため、観光情報に加えて、地域の特産品を紹介するサイトを作ることを希望されていました。そのなかの機能としては、観光アクティビティの予約や特産品の販売、協会の会員限定ページでニュース配信、限定商品の販売、さらに今後のインバウンド獲得に向けてサイト全体を多言語化したい、という盛りだくさんなご要望でした。 

これら個別の要望に対してツール導入から実行すると、【Webサイト+EC+会員サイト+それぞれの管理システム】といった複数のツールの導入と運用が必要になります(実際にそういったサイトは多く存在します)。しかし、開発前に要望を整理し、適切に設計をするれば、より効率的で運用持続性の高いシステム導入を実現することができます。 

本件で開発したシステムは、1つのWebサイト上で多言語の観光情報の発信、オンライン上での予約販売、会員登録されてる利用者に対しては会員専用ページ内で、限定ニュースや商品の購入ができるシステムとして実装しました。複数の機能をデジタル技術で繋ぎ合わせ、一つのサイト上で完結できるよう実装することで、利用者は複数のサイトを行き来することや、複数のアカウントを作ることなくサービスを利用することができるようになりました。 

ソレイヨのHPはhttps://www.soleiyo.org/

また、運営主体であるDMOとしても管理するシステムが一本化できたことで、不要な業務負担の増加も防ぐことに繋がっています。当たり前ですが、せっかく新たに作るシステムを現場で長く活用いただくためには、管理者(運用)側にとっても使いやすいものに設計しなければならないことは、基本中の基本です。 

事例2:水産市場のサプライチェーンDX  

2つ目の事例として、水産市場関係者の業務効率化の事例をご紹介します。

水産商品は、個体ごとに規格が変わったり、水揚げ状況によって流通量が変化したり、毎日商品の情報が変動します。そのため、市場の関係者は、毎朝目まぐるしく産地からの最新の商品情報を入手したり、産地情報を基に市場での買い付けを行ったり、販売先へ情報を送信し、販売したりしています。情報伝達の手段の多くは、電話やFAXを使ったアナログなやりとりであり、情報の整理や加工に多くの時間を要していました。 

そこで、個々の工程ごとにアナログなデータのやりとりを電子化に置き換える取り組みを実施しました。産地側に音声入力やスマホの写真取り込みを簡単にできるツールを導入したり、FAXデータを電子メールに変換して受け取ることができるようにしたり、集まってきた情報をWeb上で簡単にデータの編集や発信ができるようにしたりすることで、アナログ情報を整理、加工するためにかかっていた多くの時間を短縮することができました。 

一方で、市場内での買い付け業務については、最終的に紙での入力を残し、紙のデータを画像認識などでデータを電子化する方法を選択しました。これは、スマホやタブレットでの音声入力やタッチ操作が現場の状況に合わなかったためです。 

DXを活用して業務効率化を進める際には、現場のプロセスを全て電子化することが必ずしも効率化につながるわけではありません。現場の環境や利用する担当者の状況を考慮し、工程ごとに最適な解決策を組み合わせることが、DX推進の成功の鍵となります。 

事例3DMO組織内の業務効率化 

3つ目の事例は、DX支援の在り方としての意外性があるかもしれません。 

こちらの支援先であるDMOは、担当者が行政出身の方で、組織内には根強く「紙の文化」が残っていました。そのため、勤怠管理や稟議書、契約書の管理も全て紙で行われており、必要な時にそれらを検索することが難しい状態にありました。それによって作業効率が悪いだけでなく、管理業務の運用も困難な状況にあったのですが、組織の成長に伴いこれらを電子化し、管理と運用の効率化を図る必要がありました。 

DXによって改善したい要件は盛りだくさんではあるのですが、実は管理系の業務はどの組織も共通のプロセスが多いため、既に世の中に多く存在するシステムを利用することで多くの問題は解決できると考えました。そこで、新たにオリジナルのシステムを構築するのではなく、既存のクラウド型システムから、費用とサービス内容を検討し、選定から導入までを支援する形でDX化を支援いたしました。 

やみくもに莫大な費用をかけて、ゼロからシステムを構築する必要はありません。クラウドで運用されているツールを適切に導入するだけで、DXが一段階進み、効率化されるということは多々あります。その最適なツールの選定や判断といったものは、専門知識を持っていない場合は大きな負担になることが多いので、そんな時は、お気軽にご相談いただければと思います。 

事例4:地域で活躍できるデジタル人材の育成 

最後にご紹介する事例は、デジタル技術の導入で直接的に組織の業務の効率化や事業の拡大を支援した事例ではなく、地域でデジタル技術を活用して問題解決できる人材を育成する、という取り組みです。 こちらは自治体からのご依頼で、住民向けに定期開催されている講座の枠を利用して「DX人材を育成する講座を開催してほしい」という要望でした。 

講座の対象やDX人材の定義などを一任されたため、「地域に住みながらデジタルツールを活用して副業で稼ぐことができる人材の育成」というコンセプトを立て、以下の条件で講座の設計と運営を実行しました。 

・講座で使用するツールは、無料で始められるものを選定 

・副業マーケットでも需要があり、使いこなすことで「副業収入を得られるもの」を選定 

・講座のゴールとして、ツールを活用して特定の成果物を自分で作り上げること 

そんなコンセプトと設計で開催した結果、開催後には、この講座で作成したWebサイトを自分の事業HPとして活用してくれる方も出てきてくれました。ありがたいことに、有料の講座にもかかわらず多くの方にご参加いただき、2年連続で開講を予定しています。 

デジタル人材とは、システムを設計・実装するPMやエンジニアなどの技術者だけでなく、新しく生まれる便利なデジタルツールを効果的に使いこなせる人も含まれると考えています。地域住民の中に、こうした人材が増えることで、働き方の多様化や地域経済の活性化にも繋がりますので、今後も自治体としてデジタル人材の育成に取り組む地域が増えていけばなと思います。 

問題をシンプルにするとDXの導入も簡単になる! 

ここでご紹介した事例はほんの一部に過ぎず、DXの力で解決できる課題はまだたくさんあります。DXに関するお悩みがありましたら、まずはお気軽にご相談ください。一緒に問題を整理し、解決策をご提案いたします。場合によっては、デジタル技術の導入よりも効果的なアナログの手法をご提案することもあります。 

そのとき、問題解決のポイントは「シンプルにする」ことです。デジタル技術で問題を解決する際、一気に複数の問題を解決しようとすると、費用や導入までの時間がかかってしまいます。これは、どんなシステムを開発する場合でも共通する課題です。そのため、まずは問題を整理し、優先順位を決めて解決策を実行することから始めましょう。 

最後に、少しだけ私個人のお話をさせていただきます。私は愛媛県伊予市で育ちましたが、大学進学を機に地域を離れ、東京でIT分野を中心とした企業での経験や会社の創業・経営を経験した後、3年前に再び伊予市に戻って来ました。日々、地域での暮らしに、都会にはない充実感を感じる一方で、空き家や耕作放棄地の多さ、住民の高齢化といった、地域が直面する大きな課題も実感しています。 

都市部と地方の間では依然として人や仕事の流れに大きな差がありますが、コロナ禍を経て「遠隔で仕事をする」という新しい働き方が生まれました。私は、生活の拠点を地域に置き、豊かな環境で暮らしながら、デジタル技術を活用して外貨を稼ぐことができるような人を全国の地域に増やし、地域に人やお金、仕事を呼び込むことを目指しています。 

「地域のDXを推進したい」「地域にDX人材を増やしたい」など、DXに関わるお悩みをお持ちの方がいましたら、我々がお力になれることがたくさんあると思いますので、お気軽にご相談ください。 

坂本 健 (一社)地域人財基盤 ディレクター
2007年株式会社DeNAに入社し、Mobageのコンテンツ開発を担当。ソーシャルゲームの企画開発、プラットフォーム構築・オープン化を推進。2010年、ゲーム会社を起業しスマートフォン向けのアプリケーションを複数リリース後、会社売却。その後、複数の会社を創業し、地域産業のDXに従事。⽔産卸売市場、飲⾷店の流通システムの開発や次世代鮮⿂店の開発、ご当地⾳楽フェス主催やご当地ブランドの開発を推進。2021年1⽉より現職。 地域DX伴⾛を推進、2022年2⽉より愛媛県伊予市にiSTARS合同会社を設⽴ 。故郷に拠点を置き、地域のビジネスインキュベーションを進める。