さらに人員拡大が求められる「地域おこし協力隊」の採用成功を握るカギ 

はじめまして。一般社団法人地域人財基盤（以下、地域人財基盤）の早川と申します。 普段私は、ご支援先に組織づくりや人材採用の部分をメインに担当していますが、今回はそのなかでも、特にこれから地域のニーズが高まっていく「地域おこし協力隊の採用」に絞って、私が実際にご支援をさせていただいた事例とともに、気を付けるべきポイントをお話させていただこうと思います。 

募集開始前から採用活動は始まっている 

地域おこし協力隊の採用活動を始めるとき、まず皆さんは何から取り掛かりますか？ 

担当者の多くは、募集媒体の検討や、求人票の作成、といったファーストアクションを取るケースが多々みられますが、ここで多くの方が陥りがちなのが「協力隊の力を借りて、自治体は何を実現したいのか」ということを考えられていないという点です。 

その根底には、自治体という組織の構造上避けられない部分もあるのですが、非常によく聞くケースとして「協力隊を採用する」ということだけが決定事項として現場に降りてきてしまう、というものがあります。 

そしてその指令を受けた現場は、「協力隊を採用すること」には必死で頑張りますが、本来、採用の目的として置かれるべき「協力隊の力を活用して自治体は何を実現したいのか」という部分が抜け落ちている、というケースが大変多いのです。 

そうするとなにが起きるのか？
まず求人票を作る際、協力隊に任せたい業務内容がフワッとボヤけたものになり、具体性がなくなってしまいます。背景も何をするのかもよくわからない、仕事としての魅力が一切見えてこない求人の出来上がりです。奇跡的にそんな状態で応募があったとしても、協力隊の力を使って実現させたいゴールと、担ってもらいたい役割が明確に定まって決まっていない状態ですから、応募者の適性を図る採用軸も持つことができませんよね。 

採用軸がないと、どんなことが起こるのか。例えば、エリア担当として地区単位の活性化を担う協力隊を募集し、いい人そうだからと採用したとします。着任した協力隊員は、自身の知見と経験を用いて、良かれと思って精力的に様々なことに取り組みますが、地域で発生する課題というのは非常に幅が広く、複雑です。 

地域の未来のためを思って取り組んだことが住民から望まれていないなんてことはあるあるですし、地域事業者間でも「◯◯さんのところだけこんなことして、不公平だ！」と逆に怒られてしまうことも。

もしくは、地域として「本当はこういうことをやって欲しかった」と後から発覚した内容が、着任している協力隊にとっては全く経験のない仕事の可能性だってあるわけです。 

このような出来事は、協力隊も採用担当者も地元住民も、無論、悪意があって起きるのではなく、事前の整理・コミュニケーション不足による「なんか思っていたのと違った」の積み重ねであり、本来は防げたはずの不幸だと私は考えています。 

また、仮にその時の現場担当者が、一念発起して協力隊に任せたい業務内容を作り上げ、協力隊の採用に成功したとしても、自治体内で頻繁に起こる人事異動によって担当者が別の人に変わってしまった場合、そこに残るのは、協力隊について何も分かっていない新任担当者と採用された協力隊です。 

梯子を外され、ポツリと放り出されてしまう協力隊の悲劇といったら……。 

だからこそ、地域おこし協力隊の採用を進めるにあたって、彼らの力を最大限活用するためには、自治体はもちろん、事業者や住民などをはじめとするステークホルダーが共通で掲げることができる「どんな課題を解決したいのか、何を実現したいのか」という目的の言語化と合意形成が必要不可欠なのです。 

ここまでを踏まえ、協力隊採用に必要なステップは以下です。 

これらをしっかりと議論した上で求人票に落とし込み、応募者の面接を行う担当者たちが同じ判断軸で評価を行うための採用評価シートを作り、面接に臨むという流れになります。

協力隊の活用目的を作るポイントは「関係者を巻き込む」こと 

では、どのようにして協力隊の活用目的や、その活動ビジョンを作り上げれば良いのでしょうか？以下のステップは、過去に私が地域おこし協力隊の採用をするにあたって、ザックリですが自治体担当者とともに踏んだステップです。 

一番はじめに行なった庁内全課の職員と、地域企業や団体に対するヒアリングでは、それぞれ感じていた町に対する課題感や「自分たちの町をもっとこうしたい」という想いを聞き取ることができました。 

自治体担当者の方ですら聞いたことがなかった、一人ひとりが感じていた町の現状に対する考えと、そして「こんな町にしたい」という希望は、目から鱗の内容ばかりだったようで、非常に有意義な意見をキャッチアップすることができる機会でした。 

そこから汲み上げた関係者の声からその自治体にしかない個性や実現できるとわくわくするような要素を抽出し、目指すべき方向性の言語化を行い完成したのが「地域おこし協力隊を活用して実現したい目的・ビジョン」です。そうしてようやく、地域が迎え入れる協力隊に担って欲しいミッションが共通認識として置ける状態になります。 

このプロセスを踏んだからこそ、掲げられたビジョンは関係者が自分ゴトとして捉えることができ、その中で採用される協力隊のミッションは、例え担当者が異動になったとしてもブレてしまう可能性を最小限に抑えることができるようになります。 

晴れてスタートする採用活動。ここでのポイントは？ 

協力隊の活用目的が定まったら、ようやく採用活動として応募や面接がスタートします。募集しているのに応募が集まらない、と悩まれている担当者も多くいらっしゃるかと思いますが、大前提ここまででお伝えした、協力隊に応募いただく方とともに実現したい未来や目的、仕事内容が明確化していないことが多いので、まずはそこに真剣に向き合うことをおすすめします。そこを詰めることができれば、自治体の真剣さが伝わり、協力隊志望者から一定の関心を惹くことができるはずです。 

しかし、どれだけしっかり考えて活動内容に魅力付けをしたとしても、全く知らない市町村であれば、そこへの移住を伴う協力隊の応募にはなかなか繋がらないことも多いでしょう。ですので、協力隊の募集だけでなく、その地域との交流人口を増やすための取り組みとして、ふるさと納税や、お試し移住など、今は施策の選択肢がたくさんあります。

普段から地域と外の方との接点づくりを心がけることが、遠回りに感じられるかもしれませんが、結果として応募増に繋がることになるでしょう。 

移住の補助や居住環境ももちろん重要ですが、小規模自治体であればあるほど、人と人の繋がりに勝るものはないと考えています。自治体だけではなく、事業者の方々が持っているネットワークも大変有効です。

地域の方々を巻き込んだ協力隊の目的設定ができれば、SNSでのシェアや紹介などもお願いしやすいかと思いますので、募集に繋がる集客施策としても波及効果が期待できます。 

最後にもう一点、採用活動開始後のフェーズで代表的な落とし穴を挙げるとすると、「採用ステップの勘違い」です。昨今の採用領域界隈ではすでに浸透している考え方ではありますが、採用とその後の人材定着までを見越したとき、採用の第一フェーズにある「相互理解」というのが非常に重要になってきます。 

それにも関わらず、せっかくこちらに興味を持ってくれた応募者に対して、開口一言目から「志望動機をお願いします。」と始めてしまう採用担当者は今でも後を断ちません。 

一般企業への転職志望者と比べて、地域おこし協力隊に興味を持つ方は起業家精神が強かったり、この先自分がやりたい事がある人が多い傾向にあるため、協力隊を受け入れる側として、彼らの適性を計ることと同じぐらい重要なのが、「自分たちが提供できる環境は、彼らにとってメリットになるのかどうか」という視点を持つことであり、そのどちらかが欠けてしまっても、双方にとって幸せなマッチングには至りません。 

そのためにもまずは、応募をしてくれた方とは面接ではなく「面談」という形で、相互理解を深める機会を作ることを提案しています。その面談を通して、応募者の人柄や個人として考えているキャリア、ライフプランなどを聞き、その上で、地域としてどんな機会を提供できるのかを、丁寧にすり合わせていくことが重要です。町の案内だって喜んで引き受けるぐらい、理解し合う気概を持っていきましょう。 

採用はあくまでもスタートライン！  

以上が、私が地域おこし協力隊の採用支援をやってきた中で気づいた、重要なポイントになります。人口流出や高齢化によって働き手の数が減っている昨今、地域おこし協力隊の登用は地域を盛り上げるための大きなチャンスになります。

そのためには、数ある地域の中からそこを選び、その土地に来てくれた協力隊がしっかりと活躍できる環境を作り、住民として定着したくなる地域を作っていこう！という雰囲気を、自治体が主導となって作っていく事が重要です。 

総務省は2026年度までに地域おこし協力隊の数を1万人に増やす目標を掲げており、ますます人材の取り合いが予想されます。地域おこし協力隊の活用方法、採用にお困りの際は、是非当社まで気軽にご相談くださいませ。