モノの交換からヒトの交流へ。観光に繋がる「モノ・ヒト交換交流事業」とは?

初めまして。一般社団法人地域人財基盤(以下、地域人財基盤)の清水涼太と申します。 現在私は地域人財基盤に所属をしつつ、愛媛県伊予市にある、地域DMO「伊予市観光物産協会ソレイヨ」にて、市内道の駅・観光施設・宿泊施設、事業者、生産者を相互につなぐ連携事業の推進をお手伝いさせていただいております。

私は、長崎のホテルで10年以上勤務したあと2年間経営塾に入り、卒業後、秋田県鹿角市で道の駅とDMO(観光地域づくり法人)の経営及び運営を約6年半行っておりました。北(鹿角)から南(伊代)とコミットするエリアが変わることで、それぞれの地域の特徴に加え、強みや弱みを知ることが出来たと思っています。

今回は、秋田県鹿角市と愛媛県伊予市をつなぎ、多くの注目を集めた「モノ・ヒト交換交流事業」について、その企画背景と、今後の展望についてお伝えいたします。

きっかけは、冬場の「モノ不足」

【モノ・ヒト交換交流事業とは】
モノ・ヒト交換交流事業とは、秋田県鹿角市と愛媛県伊予市が連携し、まずはお互いの地域産品を交換しあってそれぞれのエリアで販売を行った事業です。取り組みを通じて、それぞれの地域でなかなか入手することが出来ない新鮮な物産品を、お互いの地域の方々に知ってもらう機会となります。モノの交換により、ヒトの繋がりが生まれて来ます。ヒトの交流を通じて、生産者同士が理解を深めることで、特産品の背景を知ることにも繋がります。
(参照:https://iyocitypromotion.jp/topics/603/

この事業の始まりは、私が秋田県鹿角(かづの)市にある、株式会社かづの観光物産公社に在籍していた頃に遡ります。秋田県の鹿角市及び東北地方は、毎年11月後半から4月にかけて、寒さの影響で採れる作物量が大幅に減ってしまいます。道の駅にある産地直売所は、基本的に地元生産者から商品を仕入れて販売を行うため、冬場は売り場で販売できる商品が限られてしまう「モノ不足」が深刻で、繁忙期に比べると商品が不足し、店全体の活気が極端に低くなってしまう状態でした。

そんな中、宮崎県から「地場で採れる柑橘類の販路を拡大したい」と連絡がありました。宮崎県は柑橘類が豊富に採れるため、地場にある豊富な柑橘を、柑橘の生産が困難な地域に卸すことで、新たな販路拡大にならないかと考えられていました。それが、冬場のモノ不足に困っていた秋田県鹿角市と、たくさんの柑橘類を抱えながら販路に悩む宮崎県とのニーズが合致し、宮崎県から柑橘類を仕入れて鹿角市の「道の駅かづの」「道の駅おおゆ」で販売をする取引が開始されました。

鹿角市で宮崎県の柑橘類の売れ行きは販売を開始した直後から好調でした。そうしたなか、鹿角市としてもこちら側の商品も知ってほしい思いが強くなり、宮崎県からは柑橘類を仕入れ、秋田県からはりんごやお米など付随する商品を互いに交換して販売を行う、「モノ・ヒト交換交流事業」の最初のアクション部分が固まったのです。

モノの交換からヒトの交流へ。互いの理解を深める

そして、現在私が常駐をしている「伊予市観光物産協会ソレイヨ」でも、2023年12月から2024年4月にかけて同様の事業を行いました。交換先としては今回も秋田県鹿角市を選定し、地域DMO(観光地域づくり法人)のエリア内である愛媛県伊予市では、観光施設「ウェルピア伊予」、「道の駅なかやま」、「道の駅ふたみ」、「手作り交流市場町家」及び、じゃこ天業者3社の協力を得て交換販売を行いました。

今回の愛媛県伊予市×秋田県鹿角市の交換交流事業では、物流の窓口として地域の観光推進役であるDMO(観光地域づくり法人)が入っている事が特徴です。週に一度、DMO同士でミーティングを行い、売上や人気商品などの仕入れを含めた話し合いは勿論ですが、互いの地域に対する理解を深め、ヒトの交流を推進する事を目指して取り組みました。

さらに今回は、モノの交換事業が2ヶ月ほど経った時に、宮崎県と愛媛県伊予市の生産者や観光事業者らを秋田県鹿角市へ招待するモニターツアーを秋田県鹿角市側で実施しました。ツアーでは、雪の中で行う農業体験や、秋田名物きりたんぽ鍋を味わってもらう場を設けたり、リンゴを使ったアップルパイ作り体験や、それぞれの抱える生産や観光に関する課題などを題材とした意見交換会を行いました。このヒトの交流によって、互いの特産品(モノ)への知見が深まり、地域のPRにもう一段階広がりが生まれました。また、北国と南国、全く違う地域でありながらも共感できる課題が発見できるなど、解決のヒントを得るいい機会にもなったようです。

事業をきっかけに人流が生まれ、観光推進につながる

この事業において、一番大切にしているのがエリアの強みと弱みを補完し合い、交流を通じた観光推進による地域活性化です。

地元のいいものが集まる道の駅や地場産センターは、周辺地域に人が訪れる仕組みを作り、人々に地域の魅力を十分に伝える機能を持つべきだと思います。また、事業の開催時期として、作物の収穫量が落ちる冬場に行うことで、その地域の魅力を潰すことなく補い合える形となります。

地域の観光推進の要ともいうべきDMO(観光地域づくり法人)や観光物産協会などの組織が窓口となる事で、この事業が事業者・生産者・観光施設の連携を推進し、地域の魅力を存分にPRできる機会を与え、ひいては人流を生み出し、観光へとつなげることが可能になると考えています。

最後に

今回の事業をきっかけに、秋田県鹿角市と愛媛県伊予市の結びつきは、とても深いものになりました。ツアーに参加した生産者は、愛媛に戻ってから地元の奥様方にきりたんぽ鍋の作り方をレクチャーするなど、今でも秋田県との交流が続いています。確実に秋田県内で伊予市の認知度は上がっていますし、その逆もまた同様です。観光旅行を検討する人も増えています。また、今回携わった観光施設事業者はこの事業の継続・拡大を希望されており、実際に何件か問い合わせをいただいており、より一層この取り組みを広げていきたいと考えております。この事業や、その思いに賛同して一緒に観光施設(道の駅など)や地域を盛り上げたいと思っていただける方は、是非ご連絡ください。

清水 涼太(一社)地域人財基盤 ディレクター
大手ホテルにてレストランサービス責任者、料飲部支配人を経て澤田経営道場の一期生として入塾。経営について学んだ後、株式会社かづの観光物産公社の執行役員及びDMO室長務め、 5期連続赤字施設であった施設を3期連続黒字に成功させた実績を持つ。その後も地域経営に携わり続け、現在は一般社団法人地域人財基盤に所属し、地域DMO一般社団法人伊予市観光物産協会ソレイヨおよび地域連携DMO株式会社かづの観光物産公社にて支援に当たっている。