【地域伴走 SHOWCASE】いま注目されている伴走支援とは?

当社が全国で行っている『伴走支援』について、それが生まれた背景や現状、そして未来の姿などを、実際の支援事例も交えながら、今後シリーズで紹介させて頂きます。初回は、当社代表である田藏大地がリポートします。

急速に普及している「伴走支援」

近年、ビジネスの現場において「伴走支援」という言葉を目にすることが増えた気がします。私が支援形態としての「伴走支援」に出会ったのは、2017年の日本人材機構(2020年6月に事業終了)入社に遡ります。当時、「伴走支援」という言葉はビジネスの世界では一般的ではなく、主流の人材支援は「コンサルティング」と「人材紹介」でした。

2010年後半は、地方創生のトレンドもあり、多くの公的資金が地方に流れ、それを狙った企業が大挙して地方へと押し寄せました。この時期、ブローカー的な地方創生コンサルも地方に多く流れ込んで、有象無象の支援者の到来に、地方の現場が混乱したことは言うまでもありません。 また、東京の仕事のスタイルを地方にそのまま持ち込み、分厚い報告書を作成し、実行丸投げのコンサルティング会社や、人材を紹介した後はコミットしないエージェントに対する反動も生まれたのもこの時期です。

そのような環境から、近い「距離感」で支援を行う「伴走支援」という支援形態に注目が集まり、今では様々な政府の政策においても、採用されるようになってきました。

サービスとしての「伴走支援」の実態

ところが、「伴走支援」が急速に普及する一方で、その支援先からは様々な不満が聞かれるようになってきました。

「伴走者」は、補助金の申請内容をチェックするだけ。自分たちのプランを押し付ける。「伴走者」からの作業の要求は多いが、こちらからの依頼は全く応えてくれない。提出物の納期は短期で迫るが、質問の返しはとにかく遅い。そもそも、うちの事業や経営を理解していない…など。

耳を疑うような内容ばかりですが、それにしても、どうしてこんな事が起きているのか?最近、強く感じるのは「伴走」に携わる方々の「伴走支援」に対する理解と、そのスキルと経験における大きな「格差」です。そもそも「伴走支援」がビジネスの表舞台に出てからの歴史は浅く、業態として成熟していない事も起因しているのではないかと感じています。残念ながら実態は「伴走風支援」が蔓延しています。

日本人材機構が生み出した「伴走型支援」

今から7年近く前、政府系機関だった日本人材機構は「伴走」を軸に、人材の力で地方創生に貢献する事を目指し、地方支援を行っていました。設立当初は人材紹介出身者が多かったため、人材紹介を中心に支援を行っていましたが、徐々にコンサルティング系の人材が参画する中で、サービスの形もコンサルティングの要素が強まり、「コンサルティング」+「人材紹介」というソリューションとして発展していきました。それがのちに「伴走型支援」と呼ばれるものとなりました。

 

当時の「伴走型支援」は、支援先を訪問して数回ヒアリングを行い、そこから仮設を立てて、現状分析や戦略策定のコンサルティングを通じて人材要件を確定、最後に人材紹介を行う流れでした。この支援モデルは、手間を掛けて支援を行うことから、支援先の皆様からは好評を博し、また、そのアプローチは当時、地方の皆様からは珍しく見えたようで、政府系の信用力も加わり、様々な問い合わせや支援の依頼を頂戴することになりました。

ハンズオンによる実行支援で偶然生まれた『伴走支援』

一方、私たちのチームは、「伴走型支援」とは少し違うアプローチで支援を行っていました。「伴走型支援」が最終的な課題の解決を「人材紹介」で行う一方、私たちは「自ら地域に入る」アプローチを採り入れていたのです。これはたまたまチームのメンバーが事業系出身だったことや、顧客であった第三セクターや地方自治体などが、従業員や職員と一緒に経営や事業を考える形でハンズオンで実行支援をして欲しいというニーズが強かったことに起因しています。

面白い事が起きました。営業を強化するために営業担当を取りたいという相談が、最終的に、管理部門の担当を採ることになったり、人材を採用したいというニーズで支援に入ったのに、人材を採用するのではなく、組織内の人事異動で対応するという結論に変わったり…。さらに、自社で投資をして施設を改修をして、自社で運営するという話が、ファンドと補助金を活用して資金調達をして、他社に運営委託を出すというスキームに変わったり…。

私たちはハンズオンによる実行支援という支援過程において、たまたま支援先の組織の空気感を感じながら、マネジメント構造や組織文化、そして、人間関係を観察することができました。そして、近い距離感で支援ができたため、日々の対話を通じて組織にとって最善の策を導き出すプロセスを「共同作業」で進めることが多かったのです。そして、これが私たちの『伴走支援』の原型となりました。

コロナ禍における『伴走支援』の難しさ

当時、ある同業者の方から、私たちのハンズオンによる伴走支援は「リアル伴走」と呼ばれていました。その伴走は、「コンサルティング」でもなく、「人材紹介」でもなく、その組み合わせである「伴走型支援」とも違いました。実際に支援先の組織に入るため、圧倒的に顧客との距離感が近く、密度が高い支援形態です。ある意味、接客業と近いものがあります。顧客との一体感があり、手触り感のあるプロジェクトにワクワクしながら仕事ができるという特長があります。

ただ、対面を重視するがゆえに弱さもあります。コロナ禍により人流が制限されるとダイレクトに影響を受けました。一気に普及したオンラインとの相性は必ずしもよくありません。もちろん、オンラインでできる支援も多くありますが、オンラインの世界では物理的に情報量が少なくなるため、明らかに伴走における顧客体験の質は低下します。また、私たちは日頃から、顧客に必要なものを、視覚や聴覚、更には第六感を駆使して「観察」して感じ取り、顧客との「対話」の中から解決策の最適化を図る脳内作業を行っています。情報量が減少することでで、伴走における正しい判断が難しくなるということがあります。

残念な伴走者、優れた伴走者の見分け方

私たちがこれまで『伴走支援』を行い、また様々な伴走事業者と交流し、実際にその支援の姿を目の当たりする中で、地域から信頼され、かつ成果を出している伴走者に共通する「ある能力」に、注目しています。それは前述した「観察力」と「対話力」です。

残念な伴走者は、数字や現象の一面だけを見たり、一部だけを切り取って、判断することが多く、早期に答えを出しがちです。また、支援先の話をじっくり聞くのではなく、初期の段階から持論を長々と展開したり、顧客を自身のフレームワークに当てはめようする傾向があります。「観察力」も無ければ、「対話力」もありません。このような伴走者がいたら、すぐに変えた方が良いと思います。

一方、優れた伴走者は、数字や資料だけではなく、現場に行って、観察し、起きている現象とその原因(つまり課題と原因)を丁寧に集めます。そして、常に課題解決に向けた複数のシナリオ(解決策)を描いています。ただ、正解と思われる特定のシナリオ(解決策)を決して押し付けたりしません。顧客との対話の中、思考のきっかけとなる様々な視点を提供するだけです。顧客自身がシナリオ(解決策)を組み立てることを支援し、顧客自らが納得し、自分事として捉えて、実行する流れを導いています。

これは私たちが考える『伴走支援』の形であり、伴走者として目指している形とも言えます。

 

■ 田藏 大地 プロフィール
一般社団法人地域人財基盤 代表理事
栃木県出身。Jリーグにて教育事業やメディア事業、インターネット事業などのスタートアップ、マーケティングを担当。2008年、地元栃木にUターンし、Jリーグチームの取締役に就任。プロ化と事業運営および営業を統括。その後、観光業界へ。ホテル開発運営会社のCOOを経て、宿泊・飲食・農業・ICT領域などのベンチャー投資やスタートアップ支援に携わる。2017年より政府系人材支援企業へ。観光・スポーツエンタメ・農林水産・産業支援領域において、全国の中小企業・自治体、官公庁の支援実績多数。2020年7月より現職。